A:流浪の毒舌王 ゲーテ
「古アムダプール市街」の内部には、グレムリンという名の奇妙な妖異がいる。これがまた、口汚いヤツでな……。
そんなグレムリンの中でも、別格な「毒舌王」がいる。
まぁ、口が悪すぎて、仲間から追放されたらしいがな。正に口は災いの元、というわけさ。
~手配書より
https://gyazo.com/4cedd1eaa91cc2b31e3551cbad0b3daa
ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしは先刻グリダニアの市街から自宅に帰ってきた相方が受注してきたモブハントの手配書をみて絶句した。
「…だめだった?」
あたしは無意識に相当嫌そうな顔をしていたのだろう。相方が心配そうな顔であたしに聞いた。
「駄目じゃないんだけど…。グレムリンは知ってる?」
相方は少し考えたが、首を横に振った。
下級妖異にグレムリンという奴が居る。毛の生えたボールのような体に大きな耳と細い手足が付いた、一見すると小動物のような成りをしていて、亜種も多い最下級に近い妖異なのだが、この系統の妖異に共通している奇妙な特徴がある。力も魔力も弱いこの妖異が生存競争を生き残るために伸ばした能力が「知恵」だ。強い者に媚び従うため微妙な空気を繊細に読み取り、その力を利用するためには何がどうなり、どうなったら利用できるのかを考え、条件を整える狡猾さ。それを可能にする知能が奴らの武器となる。そして平時、その狡猾さと理性なき知恵の働きは敵対する相手への毒舌という形で表面化する。
今回相方が持ち帰ってきた手配書の標的はそんなグレムリン族の中にあって「毒舌王」の名を欲しいままにしたのみならず、お互いに毒舌慣れしているはずのグレムリンのコミュニティですら口の悪さが許容されずに追放されたような性悪だった。
だが何も知らなかった相方にそんなに申し訳なさそうな顔をされるととても心苦しくなってしまう。
あたしは少し引きつっていたかもしれないが笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫だよ。大したことない奴だし、ささっと退治しちゃお」
数日前の出発前夜のそんなやり取りを思い出していた。相方に目をやると一見冷静に振舞ってはいるが、拳を握りしめている。目の前にいるこいつの性格の悪さはその時の想像を軽く超えてきた。
「どうしたコシヌケ!その手に持ってるのは耳かきか?ほれ、耳、掻いてくれよ、ケケケ」
そう言うと丸い体についた大きな耳をひょこひょこと動かして見せた。
こいつは執拗に相方を煽る。かれこれ小一時間煽られっぱなしの相方は流石にムッとした顔をしている。
「おまいら、ここんとこずっと俺を探して追いかけてただろ?好きなのか?抱き締めてもいいぞ」
毒舌王は申し訳程度に突いた細い両手をひらいて笑顔らしきものを浮かべてアピールする。
「あ、でもお前胸が固そうだから抱き締められてもゴツゴツしてそうだもんな、やめとくわ、ケケケ」
「こっ‥!!!」
相方は割と気にしている所を突かれて思わず声を漏らして半歩前に踏み出した。
「真に受けちゃだめよ!」
あたしが相方を制止した。煽りに乗るのはこいつの思う壺だ。
すると窘めたあたしが邪魔だったらしく毒舌王はあたしに向かって言った。
「ウルセェ、ブタネコ!引っ込んで‥」
ボゥっという音がしたかと思うと毒舌王はギャッ叫び声を立てて後ろに吹っ飛んだ。
相方が驚いて呆気にとられた顔であたしの方を見る。
ここだけの話、申し訳ないがあたしのステータスに煽り耐性という項目はない。煽りがあたしに向いた瞬間、間髪入れず問答無用で無詠唱の衝撃波魔法を叩き込んでいた。
「イッテェ!なに‥」
「ああん?お前今なんつった?」
あたしは毒舌王の答えも待たずゼノグロシーの詠唱を始めた。